研究におけるTheory

Family Medicine Research Review
10 min readOct 20, 2022

by Makoto Kaneko MD, MClSc (Family Medicine), PhD

WesternのPhDの授業で出て来る課題論文についてまとめながら紹介しようと思っていたのですが、全然追い付かずに出来ておりません。。

ただ、すごく面白いのでリストだけでも共有したいと思って書かせて頂きます。

現在はModule 1ということで本当に始まったばかりなのですが、この一番最初のModuleは

“Theory and Conceptualization in Research”

ということでTheoryの話から始まります。

ここのTheory=理論というのは例えば行動変容で言うところのTranstheoretical Model(日本だとよく「行動変容ステージモデル」の様な名前で紹介される、準備期、実行期とかが出て来るアレです。)などを指しています。

要するに、研究をする時にそのテーマの背景にある理論をよく理解してそれに基づいて行わないと

・なんでそういう仮説が出て来るのか?

・なぜその変数を選ぶのか?

・結果が出た時にそれをどう説明するのか?(メカニズムはどうなっているのか?)

ということが説明できないですよね、ということです。

当たり前と言えば当たり前なんでしょうが、今まで研究について学ぶ様々な機会に参加してきましたがtheoryから始まることは無かったので新鮮でした。

質的研究ではtheoryとリサーチクェスチョンやデータ収集、分析は切っても切れないのでもちろんその話題が出て来るのですが、ここでのポイントはそれは量的研究でも同様だ、ということだと思います。

個人的な経験からも、実臨床の経験や先行文献を読んでそれに則って研究を進めることがあるのですが、その背景にあるtheoryを意識しておかないと途中で行き詰ることがあると思っています。

biomedicalな内容に関する研究であればそのtheoryは基礎医学や臨床医学である場合が多くそれほど意識せず書かれていると思います。その反面、家庭医療の場合だと、家庭医療学のtheoryや社会科学など他の領域のtheoryを用いることがあり、theoryについて意識して言語化する必要があると思いました。

以下実際の課題論文を紹介します。

module 1, week 1: Introduction

Davidoff, F., Dixon-Woods, M., Leviton, L., Michie, S. (2015). Demystifying theory and its use in improvement. BMJ Quality & Safety 0:1–11. http://qualitysafety.bmj.com/content/early/2015/01/23/bmjqs-2014-003627.full.pdf+html

医療研究におけるtheoryの重要性、大理論・中理論・小理論などtheoryの種類について、theoryを適切に用いないとどの様な結果になるかなどが特に質改善の視点から概説されています。

Elder, J. P., Ayala, G. X., Harris, S. (1999) Theory and intervention approaches to health behavior change in primary care. Am J Prev Med 17(4):275–284. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10606196/

行動変容に関するtheoryのまとめ。行動変容に関連するtheoryにどの様なものがあるか?それを実際に使う時どの様にするか?について書かれています。行動変容に関するtheoryを概観するのにとてもよい論文です。

Andrew Prestwich, Thomas L Webb, Mark Conner. Using theory to develop and test interventions to promote changes in health behaviour: evidence, issues, and recommendations. Current Opinion in Psychology, Volume 5, 2015, Pages 1–5 https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2352250X15001049#:~:text=Using%20theory%20to%20develop%20health,health%20behaviour%20change%20is%20mixed.

行動変容に関する介入を計画する際にtheoryを用いずにやってしまう、theoryを十分理解せず行う、theoryの一部だけを用いるなどのpitfallについて書かれています。

module 1, week2: Theory and Observational Studies

Liang En Wee, L. E., Yong, W,. Z., Chng, M. W. X., Chew, S. H., et al. (2014). Area level socioeconomic status and their association with depression amongst community-dwelling elderly in Singapore. Aging & Mental Health, 18(5): 628–641. http://dx.doi.org/10.1080/13607863.2013.866632

「個人のSocioEcnomic Statusだけでなく居住している地域のSESと個人のSESのギャップが健康に関連する」という“local social inequality” model、resourceが集まっている地域に住んでいる人はそれを使ってより健康を高めていくという“collective resources model”などを紹介しつつ、地域のSESと個人の疾患(depression)の関連を見た研究です。学生の間でのディスカッションではこの後の2つの論文に比べて、背景でtheoryを紹介しているものの結果の解釈などには十分活かされていないのではないか、という意見が出ていました。

Tarrant, C., Dixon-Woods, M., Colman, A. m., Stokes, T. (2010) Continuity and trust in primary care: A qualitative study informed by game theory. Ann Fam Med, 8(5):440–446. doi:10.1370/afm.1160

家庭医と患者さんの信頼関係がどの様に形成されるかを患者さんへのインタビューから検討した研究。この研究ではゲーム理論がtheoryとして用いられています。ゲーム理論の概要、なぜそれをこの研究に当てはめるのかというrationaleから始まり、データ収集、分析、解釈に至るまで一貫してゲーム理論をフレームワークとして書かれています。theoryをしっかり理解し活用している論文の例として出ていると思いますが。初診の患者さんと何回か診察している患者さんとの間の信頼関係の違いなどについて研究しており、実臨床にとても役に立つ内容と思いました。

Little P, Everitt H, Williamson I, Warner G, Moore M, Gould C, Ferrier K, Payne S. Preferences of patients for patient centred approach to consultation in primary care: observational study. BMJ. 2001 Feb 24;322 (7284):468–72. doi: 10.1136/bmj.322.7284.468. PMID: 11222423; PMCID: PMC26564

患者中心の医療のモデル(PCCM)をtheoryとして用いた研究。PCCMに基づいて患者さんにFeeling, Ideas, Function, Expectationなどについて尋ねる質問紙を作成。診察を待っている間と診察終了後に回答して貰い、それぞれの項目の中でどれを特に患者さんが重要と考えているかなどを調査した研究。

module 1, week3: Theory and Intervention Studies

Kinmonth AL, Wareham NJ, Hardeman W, Sutton S, Prevost AT, Fanshawe T, Williams KM, Ekelund U, Spiegelhalter D, Griffin SJ. Efficacy of a theory-based behavioural intervention to increase physical activity in an at-risk group in primary care (ProActive UK): a randomised trial. Lancet. 2008 Jan 5;371(9606):41–8. doi: 10.1016/S0140–6736(08)60070–7. PMID: 18177774.

運動量を増やすのためのcomplex interventionを行ったRCT

Flottorp S, Håvelsrud K, Oxman AD. Process evaluation of a cluster randomized trial of tailored interventions to implement guidelines in primary care — why is it so hard to change practice? Fam Pract. 2003 Jun;20(3):333–9. doi: 10.1093/fampra/cmg316. PMID: 12738704.

あまり介入の効果の差が出なかったCluster RCTのプロセスを評価し対象となった施設がどう受け止めているか?なぜ診療が改善する診療所とそうでない診療所があるのか?を調査。

Litaker D, Tomolo A, Liberatore V, Stange KC, Aron D. Using complexity theory to build interventions that improve health care delivery in primary care. J Gen Intern Med. 2006 Feb;21 (Suppl 2):S30–4. doi: 10.1111/j.1525–1497.2006.00360.x. PMID: 16637958; PMCID: PMC2557133.

複雑な実臨床における介入をどの様にデザインすべきか?というテーマに対してカオス理論とaggregate complexityという二つの概念(それぞれ量的なアプローチと質的なアプローチ)が紹介されています。

また、家庭医療領域で良く用いられるtheoryとして下記が挙げられていました。

Anderson’s Behavioural Model
Levesque Patient-Centred Access to Care
Quadruple Aim
Wagner’s Chronic Disease Model
Social ecological framework
Health Belief Model

--

--

Family Medicine Research Review

From Japan to everywhere. A group blog by Japanese family physicians and international colleagues. The blog aims to build research capacity and spread studies.