Issues in our healthcare system vol.2: paradox of primary care/science of connectedness

by Makoto Kaneko MD, MClSc (Family Medicine), PhD

今回はこのEditorialシリーズの第3回、第4回である

Paradox of primary care

A science of connectedness

について紹介したいと思います。

一つ目のプライマリ・ケアのパラドックスは

「プライマリ・ケア医のケアは臓器別専門医のケアに比較して(あるいはプライマリ・ケア中心の医療システムは臓器別専門医中心の医療システムに比較して)

(1) 個々の疾患に対するケアは質が低い

にも関わらず

(2) 慢性疾患を持つ人々に対しては、より低いコストで同等の健康状態を実現できる

(3) 集団全体に対しては、質が高いケアを低コストかつ公正に提供できる」

というものである。

このパラドックス自体は様々な臨床研究の結果を組み合わせたものであるが、なぜ個別のケアの質(例えばガイドライン順守率など)は低いのに集団としてみた時により良いアウトカムが達成されるのだろうか?

この論考の中では2つの仮説が示される

①引用されている研究それぞれに限界があり、必ずしも実際に起きていることを正確に反映していない(=実際はパラドックスは無い)という可能性

疾患別の患者ケアに関する研究の多くは併存疾患がある者は除外されており、実際の臨床を反映していない可能性がある。プライマリ・ケアにかかる患者と臓器別専門医にかかる患者では同じ疾患でも重症度や併存疾患が異なっている可能性がある。また、集団に対するプライマリ・ケアの効果を示す研究は国や地域ごとのプライマリ・ケア医の割合とアウトカムの関連を見たecological studyも多く、それらを個々の患者に直接当てはめることは出来ない

②個別の患者ケアの追求と集団の健康アウトカムの追及は異なる次元で考える必要がある(=パラドックスは存在するが、それはどの次元で健康アウトカムと言うものを考えるか、による)という可能性

個々の患者の疾患ごとのケアにとってより良いアウトカムをもたらすものはケアの技術的な差であり、集団にとって良いアウトカムをもたらすものはプライマリ・ケアの質やプライマリ・ケアがその役割を発揮できる様な医療システムである、と考えるとプライマリ・ケアのパラドックスで提示された内容は説明可能と言える。

プライマリ・ケアのパラドックスをもとに

・特定の疾患へのケアだけでなく、人口集団全体のアウトカムを考える必要があること、そのための方略は専門的なケアの担い手を増やすこととイコールではないこと

・全人的なケアやコミュニティへのアプローチを過小評価しないこと

・特定の疾患に対する垂直統合が重視されがちだが、個人と地域をつなぐ水平統合も重要であり、両者のバランスを欠くと医療システムは十分機能しない

ということが提言されています。

そしてこの様な提言を実現させるためにはプライマリ・ケアが果たしている役割とは何か?それをどう評価するのか?ということを具体化させていく必要があります。

その時に重要なことは、生物医学的モデルというものは要素還元主義に基づいて組み立てられているため概念化したり測定したりすることが行いやすいのですが、プライマリ・ケアはシステム理論や複雑性理論に基づいて考えられる必要がある、という点です。

次のA science of connectednessにはこの点にもっと踏み込んでいきます。

この論考は1968年の Alpbach Symposiumにおける生命現象をどう捉えるべきか?の議論から始まります。要素に還元していけば生命現象が理解できるのか?部分の総和が全体なのか?

そして原子-細胞-臓器-個体-家族-地域-世界が相互に影響し合っているというGeorge Engelの考え方や複雑系理論などが紹介されます。

そしてこれらの考え方の医療システムへの適応として

Holarchy of health care

という概念が提唱されます

上記のサイトのFigure 2が分かりやすいのですが、Holarchy of health careは4段階のピラミッドで
一番下から

Fundamental Health Care:個別の健康問題に関するケア

Integrated Care:複数の健康問題を抱えたmultimorbidityの人へのケア

Prioritized Care:個人の背景や社会の背景を考慮したケア

Healing and Transcendence:苦悩(suffering)を乗り越えること(transcendence)

となっており、医療システムが部分だけでも全体だけでもなくその相互の関連から成り立っていることを示しています。

医療システム全体をこのようにとらえ、上位の目標を達成するために何が必要か、それが下位とどの様に関連しているかを意識することでより医療システムを改善していくことが出来ると筆者は主張しています。

現状の医療システムの評価の多くはfundamental health careの段階にとどまっており、より上位の部分をどう評価し改善していくかが重要となります。

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Family Medicine Research Review

From Japan to everywhere. A group blog by Japanese family physicians and international colleagues. The blog aims to build research capacity and spread studies.