Do undergraduate general practice placements propagate the ‘inverse care law’? Deep End vol. 10

Family Medicine Research Review
6 min readJul 13, 2022

by Makoto Kaneko MD, MClSc, PhD

今回は教育に関する論文として最近発表されたばかりの

Butler D, O’Donovan D, McClung A, Hart N. Do undergraduate general practice placements propagate the ‘inverse care law’? Educ Prim Care. 2022 Jun 29:1–8. doi: 10.1080/14739879.2022.2092908. Epub ahead of print. PMID: 35770351.

を取り上げます。リンクはこちら↓

タイトルからして、

「卒前のgeneral practice実習はinverse care lawを広げているのか?」

という興味深いものになっています。

inverse care lawについては過去のブログもご参照ください。

本研究は北アイルランドが舞台となっており、北アイルランドで行われているGP(=General Practice≒総合診療)の実習がどの様な社会経済的状況の地域で行われているか?を調査したものです。

背景

これまでこのブログでも繰り返し触れたように

・社会経済的に厳しい地域では、より多くの疾患を持っていたり、メンタルヘルスの問題を抱えている方の割合が高い

ということが示され

・COVID-19での死亡は最も豊かな地域に比べて、最も貧しい地域では2倍であった

その様な中で医学教育は何をしてきたのか?という問いに

Tudor-Hart先生の

“medical education propagated the inverse care law, as medical students practised ‘ideal medicine under ideal conditions’ encouraging graduates to; ‘leave those who need them most and go to those who need them least’”

という言葉が紹介されます。つまり、理想的な環境で理想的な医療を行うことを教育することを通じて、若い医師たちは最もケアを必要としている人のところを離れて行ってしまいinverse care lawを押し進める結果になってしまっている、ということです。

医学生が将来、社会経済的に厳しい状況にある人々、marginalized populationの方々のケアに従事するかどうかは、卒前でその様な場に接する機会があるかが重要な要素であることが報告されており(この辺はへき地医療と一緒ですね)、英国の医学教育の中でも健康格差や健康の社会的決定因子について学ぶことが求められています。(これは日本の医学教育モデルコアカリキュラムでも同様です)

そのため、卒前・卒後とも社会的経済的に厳しい地域での実習や診療に触れる取り組みが少しずつUKでは行われています。本研究ではEnglandと比較して、更に社会経済的に厳しい地域に住む方が多いNorthern Irelandにおいて卒前のGP実習がどの様な場所で行われているかを調査したものです。

方法

Northern Irelandで唯一GP実習を行っているQueen’s University Belfast (QUB)での研究です。

deprivationの定義としては1 (most deprived)から890(least deprived)で表現されるMultiple Deprivation Measureという尺度を使っています。

この尺度が、人口1300-2800人を含むSuper Output Area (SOA) levelという単位で設定されており、上記のMultiple Deprivation Measureのスコアで全体を5等分して表現しています。

診療所の患者さんの半分以上が、5等分の最も低い地域から来ている診療所を“deprived practice”、それ以外の診療所を“non-deprived practice”としてどの地域でGP実習が行われているかを記述しました。

結果

“deprived practice”は全体の10.4%であり、それ以外の”non-deprived practice”が全体の89.6%を占めていました。(Northern Ireland全体ではそれぞれ13.6%、86.4%)

患者ごとの住所地で見ても、教育診療所では非教育診療所に比較してdeprivationの程度が高い人を診ている割合が低く、affluent な人を診ている割合が高いことが分かりました。

考察

deprived practiceがなぜ教育に従事しにくいのか?についての考察として

医師側の要因

・deprived practiceで働く人が少なく、人手不足で教育に手が回らない

・患者が多かったり、複雑性が高かったりするため診療自体が大変で教育に関わるのが難しい

・教育に積極的なGPが働いている割合が少ない

患者側の要因

・メンタルヘルスプロブレムがある方が多く、学生の同席が歓迎されない

診療所側の要因

・deprived practiceは都市部にあることが多く、診療所が狭く学生を受け入れるスペースが無い

などが挙げられています。

また、その解決策として

(1)これまで教育に携わったことのないdeprived practiceに積極的に参加して貰う

(2)インセンティブをつける

(3)業務量を共有するための診療所間の連携を可能にする

などが挙げられています

著者らは2020年に新しい卒前教育プログラムを開始しており、その中で臨床実習の全体の1/4がgeneral practiceになるため、その中でこの知見を活かしていきたいとのことです。

日本でも同様の取り組みは今後広がっていくのではないかと思います。

(写真は本文とは関係ありません)

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From Japan to everywhere. A group blog by Japanese family physicians and international colleagues. The blog aims to build research capacity and spread studies.